第5章 市民自治の時代に向けて

1. 地方分権推進の必要性

 明治維新、戦後改革に継ぐ、第三の改革の波が地方自治体に押し寄せている。地方自治法が施行されて50年を経たいま、明治以来続いてきた中央集権の時代は終わり、中央から地方自治体への分権の時代が幕を開けた。
 戦後、荒廃の中から出発した日本社会は、欧米社会の豊かさにあこがれ、それに追いつくことを社会全体が目標としてきた。こういった過程において、日本の中央集権システムは、社会全体が一つの目標に向かって進む際にはきわめて有効に機能し、誰もが平等に今日の繁栄を享受できる社会を作りあげた。一方において、市民が自らの意志と判断で地域社会を形成する地方自治の思想は、社会全体の目標達成を優先するために、意識の片隅に追いやらざるを得なかった。
 しかしながら、戦後50有余年を経て、国民の生活が一定の豊かさを有し、ある程度のシビルミニマムが達成された現在においては、市民の要請は、社会全体の一律的な底上げから、個々の市民の多様なニーズに応えることへと変化してきている。また、地域社会においても、都市機能が一定程度充足されたことから、その先に解決すべき課題として見据えられていることは、個々の地域社会の固有の課題であり、それは、人口構成、地理的特性、文化、歴史等が様々であることから派生する、千差万別の課題である。一例をあげれば、高齢化が著しい地域においては老人福祉施設の整備等がそれであり、人口の減少に悩む地域では若者の定住対策が特に重視される。過密に悩む地域では交通政策や住宅の供給が必要とされ、外国人の増加が進む地域では、外国人と共存できる国際化に対応した街づくりが求められる。寒冷地では冬期間の積雪対策が重要となり、農業地域と工業地帯とでは、選択すべき政策が自ずと異なってくる。
 もちろん、それぞれの地域における個々の課題に共通点は多々あるが、いずれの地域も多種多様な課題が複層的に重なり合っていることから、その解決方策は、共通点は有しながらも個々の自治体ごとに異なったものとなる。
 こうした状況下では、中央が考えた全国一律の対応策では千差万別な課題に対応することはもはや不可能であり、それぞれの抱える課題に応じた自治体独自の処方箋が必要なのである。
 加えて、現在のように変動の著しい社会においては、次々と発生する課題に直ちに反応し、問題の重大化を招かない即応性が必要であり、それには、硬直化した政策では有効といえず、市民ニーズの変化に即座に反応して臨機応変に対応する機動性が求められているのである。
 したがって、市民に最も身近な行政である地方自治体が、多種多様な市民ニーズに、自らの判断で即座に応え、市民への責任を果たすことができるシステムが必要なのであり、地方分権を推進し地方自治体の権限を強化することの意義は、まさに、この点にあるのである。



戻る
home 次へ


市章
Copyright (C)1998,1999 秋田県秋田市(Akita City , Akita , Japan)
All Rights Reserved.
webmaster@city.akita.akita.jp