2000年
9月8日号



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2000年国連軍縮秋田会議

21世紀の軍縮と国連:その戦略と行動
8月22日(火)〜25日(金)

 終戦から55年。日本最後の空襲被災地である秋田市で国連軍縮会議が開かれました。アジア、太平洋諸国を中心に22か国から政府関係者や学者、ジャーナリストら64人が参加し、「21世紀の軍縮と国連:その戦略と行動」をテーマに話し合いが行われました。
 4日間で延べ約800人の一般聴講者が会場を訪れ、平和の願いを秋田から世界へ発信しました。

 

国連軍縮会議って…

 国連軍縮会議は、日本政府の提唱で平成元年から始まりました。ニューヨークの国連軍縮局と国連アジア太平洋平和軍縮センターが主催し、これまで広島、長崎、京都など毎年日本で開かれ、今年で十二回目となります。
 この会議は、国連総会やジュネーブ軍縮会議など政府の代表で構成される会議とは異なり、各国の大使、学者、ジャーナリストなどが個人の立場で参加し、自由に議論するものです。合意文書や声明などの発表はありませんが、この会議での議論は、国連総会や他の国際会議に影響を与えています。
 秋田会議では、国連の役割、今年の春に行われた核拡散防止条約(NPT)再検討会議についての評価、核兵器の削減、南北朝鮮問題、通常兵器の問題などについて活発な議論が交わされました。

 

核兵器の廃絶に向けて

 秋田会議は、エフジェニー・ゴルコフスキー国連軍縮局次長のあいさつで始まりました。「先のNPT再検討会議では、核保有国も核廃絶を求めていくことを約束。さらに今後は通常兵器の貯蔵や軍事支出に関する透明性を高めていかなければならない」との見解を述べました。続いて外務省の浅野勝人政務次官が「核廃絶について、国際社会がどのように取り組んでいくべきかを示す新たな核軍縮決議案を秋の国連総会に提出したい」と日本政府の意欲をアピールしました。
 会議は、各テーマにそって進行。明石康前国連事務次長は「国連の役割は、国際世論を適切に反映すること、国際規範をつくり条約などを採択すること、国際的な情報交換の場となること、平和維持活動のように現地で具体的な活動をすすめること−の四つである」と、国連が引き続き重要であることを強調しました。
 また、他の出席者は、秋田会議のような地域対話の機会は軍縮の促進や国同士の信頼関係の構築に効果があることを説明。民族紛争やテロ行為に象徴される社会状況を踏まえ、安全保障の対象も国家から人間へと移行しているとの指摘もありました。朝鮮半島問題についても、南北首脳会談の共同宣言を実施するには東南アジア諸国連合(ASEAN)など地域の支援も必要であるなど、国際平和をめぐる様々な問題が話し合われました。


平和活動を市の宿題に

 四日間にわたる会議を終え、平岡敬前広島市長からは、「軍縮や核問題を論議する際には、広島・長崎で核兵器が与えた悲しみを頭の片隅に置き、国家でなく、人間として発想してほしいと思います」との発言がありました。
 最後に石川秋田市長が「世界平和の問題が若い世代にも深く浸透したと思います。市民生活と軍縮の深い関わりを学んだ経験をいかして、市民がどう平和活動を行っていけるか、秋田市の宿題にしたい」とまとめました。

 世界平和を願う人々の熱い思いにあふれた四日間。満席の会場も、世界の最前線で活躍しているかたがたの話に真剣に耳を傾けていました。
 中学生たちを交えたシンポジウムにも大きな反響がありました。また、聖霊高校ハンドベルクワイアから、平和への祈りをハンドベルで表現したCDが会議の出席者に贈られたほか、土崎港被爆市民会議からは、市内の小中学生たちがつづったメッセージと折り鶴が国連に託されました。
 世界平和のために自分ができること、それを地道に粘り強く続けていくことが大切なことなのです。

 

ミニ用語解説

●国際連合

 第二次世界大戦後、世界平和と経済・社会の発展のために協力することを誓った国々が集まってできた国際機関。加盟国は現在一八八か国。総会、安全保障理事会、事務局、国際司法裁判所、経済社会理事会、信託統治理事会の六つの主要機関がある。
 軍縮については、国連総会で話し合われ、毎年会議を開き、決議をして意思統一をはかっている。

 

●NPT(核拡散防止条約)再検討会議

 NPTは、核戦力の規制を目的にした国際条約。核兵器の他国への譲渡、原子力の平和的目的以外への転用、非核保有国の核兵器製造などを禁止している。再検討会議はこの条約の運用を検討するために五年ごとに開かれているもの。今春もニューヨークの国連本部で開かれ、核を保有している五か国が初めて一致して、核兵器廃絶を明確に約束することなどの合意がなされた。

 

●ジュネーブ軍縮会議

 国連や他の国際機関から独立した多数国間の軍事交渉機関。化学兵器禁止条約などの軍縮条約や協定をつくる場となっている。六十六か国が参加。

 

●通常兵器

 核兵器、生物・化学兵器などの大量破壊兵器以外の兵器のこと。

 

中学生たちも参加したぞ。

 会議二日目に、市内の中学生七十七人が参加して開かれたシンポジウム。軍縮を身近な問題として考えてもらおうと、世界の最前線で活躍しているかたがたと対面し、質問タイムも設けられました。

 

次世代につなぐ平和
世界に届け、熱いメッセージ

●市内の中学生が、心のこもったメッセージを軍縮会議参加者の前で発表。世界に平和を呼びかけました。

 

ふるさと学習で土崎空襲について学んだ
宮田千鶴さん(土崎中三年)

 五十五年前の土崎空襲が私に教えてくれたもの。それは、明日が終戦だとわかっていても徹底的に破壊し殺し尽くす、戦争の現実でした。
 世界平和のために私にできること。ひとつは、ふるさと土崎に住む一人として、戦争の悲惨な事実や暗い出来事を真剣に学び引き継いでいく継承者となることです。そして、もうひとつは、世界の中の一人として考えることです。一生懸命考える「知恵」、考えたことに積極的に取り組む「努力」、自分の利益ばかり考えず我慢する「忍耐力」。この三つのキーワードを実現することを提案します。

 

生徒会で地雷撲滅運動に取り組んでいる
豊岩中の鈴木一斉さん、五十嵐早苗さん

 いまだ世界の至るところで地雷の被害を受けている人たちがいます。その悲しい事実を知ったときから、豊岩中の地雷撲滅運動は始まりました。
 埋まっているたくさんの地雷を一日でも早く取り除くこと、そして、人間同士で憎み合い、傷つけ合おうとする気持ち、すなわち「心の中の地雷」を取り除くことが、二十一世紀を生きる私たちに託された使命だと考えています。

 

クエスチョンタイム

●中学生や一般の聴講者のみなさんからの質問に、軍縮会議の出席者が分かりやすく回答しました。

 

日本から核兵器保有国へ核兵器削減の訴えは、どのように伝えているの?

 阿部信康さん(ウィーン国際機関日本国代表部大使/秋田県出身)…保有国に対し直接申し入れをしているほか、国連総会、ジュネーブ軍縮会議などで日本の主張として核の廃絶などを訴えています。また、日本の場合、広島や長崎に核廃絶を訴えるNGO(非政府組織)や研究所も多いので、民間レベルの活動も盛んです。それでもなかなか核軍縮が進まないのは、まだ努力が足りないのでしょうか。

 

核を保有する国はどれくらいあり、また保有する理由は?

 ラルフ・A・カッサさん(アジア太平洋地域安全保障協力委員会事務局長/アメリカ)…アメリカ、ロシアなど五か国と言われていますが、インド、パキスタンも保有を示していますし、イスラエル、北朝鮮も保有の疑いがあります。核を保有する理由は、ある種のエゴや誤った誇りにあります。核を保有することで強い国になった気持ちになるのでしょう。
 核拡散を防ぐためには、多くの支援が必要で、日本のリーダーシップも求められています。なぜなら、日本は世界で唯一の原爆被爆国であり、道徳的にも核兵器反対を主張できる立場にあるからです。

 

国連平和維持活動はどんなことですか?

 明石康さん(前国連事務次長/秋田県出身)…国連職員や国連の平和維持軍が、争っている国と国の間に入り、武器を持たず、あるいは小型の武器だけで、紛争の問題を話し合いで解決できるような余裕と時間を作ってあげることです。日本は平和維持活動に対し金銭的な援助をするばかりでなく、紛争でかわいそうな目にあっている人々を助けるため、汗を流し、時には血を流す覚悟で貢献する努力をしなければいけません。

 

日本の常任理事国入りは? 実現したらどんな面で貢献できるのでしょう。

 明石康さん…国連の常任理事国は五か国(米、露、中、仏、英)。強い発言力があるので、どの国もなりたがっています。日本の経済力はアメリカに次いで世界第二位、ODA(公的開発援助)は世界一位と常任理事国になる資格は十分です。また、現在の常任理事国は全て核保有国なので、核保有国でない国がなってもいい。日本の場合、軍縮や開発の面で貢献する ことになりますが、そのためには、世界に貢献する意思表示をし、もっと国際的な知識や理解を深める必要があります。

 

軍縮会議に参加して

豊岩中の今野修さん(1年)、鈴木一生さん(2年)、鈴木竜太さん(3年)

 秋田県出身の明石さんたちが世界で活躍しているのを見て感激しました。国連の職員として仕事をするために地道な努力をしたことを知り、勇気づけられました。自分たちももっと語学力をつけて、国際的な舞台で立派に自分の意見を話せるように勉強したいと思いました。
 また、土崎空襲の発表を聞いて、戦争をめぐる出来事が身近に感じられました。今回ほど、武器と呼ばれるものが世界からなくなればいいと思ったことはありません。僕たちが行っている地雷撲滅運動と合わせ、もっと世界のことを理解していきたいです。

 

御野場中の木次谷千佳子さん(3年)、佐々木真奈美さん(2年)

 核の廃絶など、軍縮をすすめるにはたくさんの時間がかかることを学びました。世界では民族紛争などがまだまだ多くて、その影響は一国だけにとどまらず何らかの形で世界中に及んでいるそうです。教科書に書いてある話がとても身近に感じられたし、国と世代を越えた意見交換が刺激的でした。軍縮会議に参加した貴重な体験を、生徒会などで発表したいと思います。

 

感想

野呂田皓(あき)子さんと娘の恵子さん(広面)

 私は土崎空襲の頃、男鹿で教師をしていましたし、娘は東京でNGO活動に携わっているので、親子で興味深くお話を伺いました。国際会議が身近で開かれ、若い世代がそれに参加できたことは大きな収穫です。人を許す大きな心が世界平和への出発点。私たちももっとグローバルな視点を持ち続けたいと思いました。

 

大学生の石上陽一さん(仙台市)

 秋田出身の後輩から誘われて参加。大学の講義の延長としても参考になりました。人道的援助についての白熱した討論、とても刺激的でした。人道的援助に限らず、明確な基準のない問題は徹底的に話し合ってほしいと思いました。

 

閉会宣言

石栗勉さん
(国連アジア太平洋平和軍縮センター所長)

 4日間の会議では、参加者のみなさんから示唆に富んだ、時には思考を強く刺激するような発言が聞かれました。こうした発言は、アジア太平洋地域の様々な問題を解決するアイデアを与えてくれました。
 国連軍縮会議は、アジア太平洋地域における軍縮、安全、繁栄についての対話を促進する重要な手段として高く評価されるようになりました。国連通常兵器登録制度の創設や小型武器の研究に関するイニシアチブもこの軍縮会議の結果として生まれたものです。アジア太平洋地域の国々の信頼関係を深めるのにも大きく貢献しています。
 秋田会議の成果は、このあとの軍縮に関するいろいろな討論の場でも十分活用されることとなるでしょう。

 

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