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2009年8月7日号

市長コラム


市制120周年記念式典で(7月12日)
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古いものには物語がある

市長穂積 志


 例えば、廃校となった木造校舎に足を踏み入れ、コツコツと靴音が響く階段を上って教室の空気に包まれたとします。ついちょっと前までそこに子どもたちがいたような、元気な遊び声や先生の呼び声が聞こえてくるような、時代をタイムスリップしたような気分になりませんか。それが母校であれば、自らの想いや記憶と重なって感慨はひとしおのことと思います。
 私が生まれ育った新屋には、秋田公立美術工芸短期大学(美短)があります。その一角にある「アトリエももさだ」と呼ばれている、かつての倉庫群を利用した大学の施設をご存じでしょうか。
 これは昭和9年に建設され、長年にわたり米を貯蔵する「国立新屋倉庫」として機能してきたものです。その施設を農林水産省から譲り受け、今は美短の実習棟や地域交流棟などとして活用しています。かつては、仙北・平鹿の豊かな穀倉地帯から雄物川の舟運に乗って、たくさんの米がこの新屋の倉庫に積み上げられていたことでしょう。それだけでも、当時の人や物の行き交う姿や地域経済の歴史を感じさせます。
 美短の現代的な建築と、長い歴史を刻んできた旧国立倉庫群。このコントラストがキャンパスに新鮮な潤いを与えると同時に、教育面でも学生たちは知らず知らずのうちに、歴史のシャワーを浴びつつ学んでいるともいえるでしょう。
一方で、秋田駅から広小路周辺の街並みは、同規模で同様の歴史的背景を有する地方都市の中心部に比べて、少し寂しさを感じます。それは商店街の空洞化以前の問題として、明治や大正、昭和初期の歴史的建造物をどんどん壊していったことも大きな要因ではないかと思います。 県民会館のところにあった「秋田県記念館」は、今は写真で見ることしかできませんが、昭和32年生まれの私の年代でも、木内デパートの隣にあった、赤れんが造りの地方裁判所や、その前を市電が走っていたことなどが幼いころのかすかな記憶として残っています。あのれんが造りの建物が今も残っていたらと、時々考えてしまいます。
 財政的見地からだけで言うのではありません。これからは、古いものを壊し、新しいものをどんどんつくっていく時代ではないと思います。今あるものも大事にしていかなければなりません。
 古いものには物語がある。そこには重層的な都市の歴史と人々の記憶の蓄積が込められている、という観点からも心していきたいと思います。

















































優雅なルネッサンス様式の秋田県記念館。
老朽化のため、昭和35年に解体されました。

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