※掲載している情報は「広報あきた」発行当時のものです。
2018年11月2日号

市長コラム

芸術の真髄
 〜見えないものをかたちに

市長 穂積 志(もとむ)

千住博展は、千秋美術館と県立美術館の合同開催で、
会期は11月4日(日)までです。写真は「瀧図」の前で

 街路樹や公園の木々の色づきが、里の秋にふさわしい風景となってきました。南北に長い日本列島にあって、春は桜前線の北上を待ちわび、秋が深まってくれば紅葉前線の南下を楽しむ、鮮やかな四季の彩りを実感する季節です。
 さて先般、この広報あきたでもたびたびご案内した「千住博展」を鑑賞してきました。期待も大きかったのですが、実際にはそれ以上の感動と満足感を覚えました。まず圧倒されたのは「断崖図」。和紙を手でもみ皺をつくり、その上から絵の具を流し込んで岩肌の質感や立体感を十分に醸し出していました。迫ってくる断崖を前にして、木々を取り囲む空気にも触れているような臨場感に、自分がそこにいるかのような気分になりました。作品解説の言葉に「平面の彫刻」とありましたが、まさにぴったりの表現だと思います。
 そして圧巻は「瀧図」。滝というと大胆に水が流れ落ちしぶきが飛ぶエネルギッシュな光景が思い浮かびますが、幅が25メートルを超す大作にもかかわらず、私にはむしろ心が落ち着き浄化され、静寂の中に浸っているように思えました。この作品の真ん中は、ぽっかりと暗黒の空白になっています。それが逆に、限りなく底なしで奥深い未来永劫を表しているようでした。先生は「流れの奥に空海が鎮座している」と話されていました。
 完成には3年を費やしていますが、最初は制作に行き詰まり苦悩の連続で、絶壁の上を歩く思いだったとか。それがあるとき、空海の「これ以上手を加えないでくれ」という声が聞こえたそうです。完成の瞬間です。その後は、苦悩が吹き飛び「悩みと苦しさの連続の中にこそ幸せがあった」と懐かしく思えるようになったそうです。住む世界は違いますが、私たちも似たような局面にぶつかることもあるのではないかと思います。何かに熱中し道を究めようとする人であれば、なおさら共感する部分が多いかもしれません。
 先生との出会いは平成25年5月、「秋田公立美術大学に期待すること」とのタイトルで開学記念講演をお願いしました。

芸術とは見えないものを
かたちにすること


 強く印象に残っている先生の言葉です。開学まで紆余曲折や苦労もありましたが、この言葉で大学の展望が開けたように感じ、それまでの苦労も吹き飛びました。
 「断崖図」と「瀧図」は、2020年に襖絵として表具され、高野山金剛峯寺に奉納されることになっています。そのときの再会を今から心待ちにしています。

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