※掲載している情報は「広報あきた」発行当時のものです。
2025年1月3日号

新春市長コラム

日々初心



秋田市長 穂積 志(もとむ)

 明けましておめでとうございます。本年がみなさまにとって、心穏やかで健やかな一年となることを心からお祈り申し上げます。
 今年は巳(み)年。「巳(蛇)」は、古来より田畑を守り、恵みの雨をもたらす豊穣の神として敬(うやま)われてきました。また、たくましい生命力を持ち、脱皮するたびに表面の傷が治癒していくことから、医療、治療、再生のシンボルとして、WHO(世界保健機関)のマークや救急車などの救急医療のデザインにも採用されています。
 一年前の元日、家族団らんの穏やかな時間が流れる能登半島を巨大地震が襲いました。さらに震災から復興への歩みを進めていた酷暑の9月、同地域は記録的な大雨に見舞われ、甚大な被害が発生しました。度重なる災厄に言葉を失い、我々の生活は常に自然の脅威と隣り合わせであることを改めて思い知らされました。被害を受けられたみなさまの一日も早い生活再建と美しく豊かな能登の再興を心から願うとともに、本市としても、令和5年に発生した豪雨災害からの復旧と復興、安全安心で災害に強いまちづくりに全力で取り組む決意を新たにしています。

パリのまちに見えたもの

 昨年のパリオリンピック・パラリンピックは、日本選手団の連日の活躍に日本中が熱狂しました。本市出身者では、サッカー女子の石川璃音(りおん)選手(三菱重工浦和レッズレディース)が、同競技の男女を通じて県勢初の代表に選出され、2大会連続となるベスト8への進出に貢献したほか、ブラインドマラソンに出場した熊谷 豊選手(三井ダイレクト損害保険)は2回の転倒を乗り越え見事10位、去る10月に開催された「東京レガシーハーフマラソン2024」では、視覚障がい(T12)男子ハーフマラソンの世界新記録を樹立し優勝するなど活躍が続いています。
 バドミントン女子ダブルスでは、北都銀行の永原和可那選手と松本麻佑選手のナガマツペアが奮闘。ともに北海道出身の2人は、ここ秋田から世界へ羽ばたけることを証明し続けてくれました。あらためて「勇気と感動をありがとう」の言葉を送りたいと思います。
 また、各競技に先立って開催されたオリンピックの開会式は、伝統的な式典形式とは異なり、「花の都」パリのまちを舞台に圧巻のパフォーマンスの数々が繰り広げられ、光と音楽と笑顔に彩られた素晴らしい演出であったと思います。私も2年程前に「北前船寄港地フォーラム」でパリを訪れており、セーヌ川沿いでの竿燈演技やルーブル美術館で行われた講演会など、当時の記憶を重ねつつ、まちそのものを開会式会場とする大胆な発想に感心し、美しいまち並みとともに興味深く拝見しました。
 開会式の冒頭で、聖火を運んだのは地元開催となった1998年のサッカー・ワールドカップフランス大会で中心選手として活躍し、母国をワールドカップ初優勝に導いたジネディーヌ・ジダンさん。サッカー界のスーパースターが聖火を引き継いだのは3人の子どもたちでした。「未来を託したよ」、そんなジダンさんの柔らかい表情が印象深く感じられたシーンでした。
 ここ数年、本市でも芸術文化ゾーンを中心に、市民の多彩で創造的な活動が広がり、まちを楽しむ市民の姿が多く見られます。ミルハスや文化創造館といった活動環境が整ってきた成果と言えますが、中心市街地に千秋公園や秋田駅西口の芝生広場など、市民が日常的に活用できる公共スペースが多いのも本市の強みです。「アイデアを実現したい!」「新しいことにチャレンジしたい!」という一人一人の思いを受け止める場所や機会、応援する人の存在がまちの可能性と魅力をさらに高め、未来につながると信じています。
*芸術文化ゾーン=文化創造館・ミルハス・千秋美術館・県立美術館などから、千秋公園に至る一帯


 オリンピック閉会式から約一週間後、秋田公立美術大学の前身、秋田公立美術工芸短期大学で学長を務められ、北前船寄港地フォーラムの提唱者である石川好(よしみ)さんの突然の訃報に接しました。長年、本市の芸術文化の向上と地域文化の振興に多大なご貢献をいただいたことに心から感謝を申し上げます。生前の取り組みは、平成29年に文化庁日本遺産「荒波を越えた男たちの夢が紡いだ異空間〜北前船寄港地・船主集落〜」の認定につながり、現在は本市の貴重な資源となっています

写真で振り返る2024年


5月 新たに整備する仁井田浄水場の安全祈願祭を行いました(完成は令和10年3月の予定)

5月 ナガマツペアがパリオリンピック出場内定報告に市役所を訪れました

photo by©Nacasa & Partners
6月 “光差し込むひらかれた「美」の入り口〟千秋美術館がリニューアルオープン

7月 千秋公園大手門お堀の遊歩道がオープン!ハスを間近で見ることができるようになりました

8月 ドイツ・パッサウ市との姉妹都市提携40周年を記念して、パッサウ市の訪問団が秋田市を訪れました

10月 台湾・台南市と「交流協力に関する合意書」を締結しました。今後さまざまな相互交流に取り組みます

11月 市立秋田総合病院の改築工事が完了し、すべての施設が利用できるようになりました
市公式LINEがリニューアル!

市公式LINE

若い世代のリアルを考える

 令和7年度は、市政推進の基本方針である総合計画を策定する大切な年です。総合計画は、時代の変化に合わせ、本市がめざすべき将来の姿やまちづくりの大局的な方向性と、その実現に向けた具体的な政策などを示すため、おおむね5年ごとに見直しています。
 これまで、計画策定の前年度には「住みごこち」や「人口減少社会」などに関する市民意識の変化や、創生戦略をはじめとする市の施策の評価などを把握するため、市民3千人(無作為抽出)を対象とする「しあわせづくり市民意識調査」を実施し、広く意見を伺い、市政運営に生かしてきました。
 昨年夏に実施した調査の結果を見て、まず若い世代(10〜30代)の意識の変化が目に留(と)まりました。「もっとも力を入れて欲しい施策」の設問では、「子育て支援」を求める意見が一番多かったほか、特徴的だったのは「道路交通網の整備」や「バス路線の維持」が上位に加わったことです。
 交通ネットワークは日常生活の足として活発な地域間交流を支える重要な社会基盤であり、その維持や確保が幅広い世代に共通する行政ニーズであることをしっかりと受け止めました。加えて、時代の変化とともにライフスタイルや価値観が多様化し、その変化のスピードが増している現代は、我々の若い頃と異なり、日々慌ただしく、若い世代にとって少し窮屈な社会となっているように感じます。
 これまでも市民一人一人が将来に希望を持ち、このまちに誇りと愛着を感じて「住み続けたい」と思えることが、私が思い描く「未来が見えるまちづくり」の核心である、とさまざまな機会を通じて伝えてきました。多くの人々の努力が広く報われた経済成長の時代が終わり、人口減少や異常気象など社会全体が大きな転換期を迎えている中、「希望」とは何かを考えることが重要だと思います。
 私は「未来を信じる力」が希望につながると捉えています。未来には不安や心配がつきものですし、未来と希望をセットで語るのが難しい社会経済情勢ですが、各地で展開する新たなアイデアや活動、いつか花を咲かせるかもしれない小さな変化の兆しに価値を見いだし、社会全体で育(はぐく)もうとする意識が地方創生の源泉と考えます。未来を創るのは若い世代であり、そして、諦めからは希望が生まれないことは、いつの時代も変わるものではありません。
 そうした中、市民意識調査において、「秋田市に住み続けるために必要なこと」という問いに、すべての世代が「若者にとって魅力あるまちづくり」を上位に選択していたことは、私にとって何よりも大きな希望であり明確な指針となりました。


ミルハスと文化創造館

11月 ミラーライアーフィルムズ秋田文化祭では若い世代が活躍!

セリオンから見た洋上風力発電 10月 中核市サミットに、全国62の中核市のみなさんが一堂に会しました

若者の挑戦を応援するまち

 本市では昨年度から映像製作を通じて若い世代の挑戦を応援し、地方創生に取り組むプロジェクト「ミラーライアーフィルムズ秋田」を展開しています。これは学生や若手クリエーターが、竹中直人さん、大橋裕之さん、小栗旬さん、浅野忠信さんといった一流クリエーターとともに短編映画の制作を通じてまちの魅力を再発見しながら、このまちで夢に挑戦できる機会を創出するプロジェクトです。参加した学生たちの意識にも変化が感じられ、「日本と世界を繋(つな)ぐ架け橋として、映画やメディアの仕事にチャレンジしたい」などと夢を語ってくれています。
 また、昨年10月に開催した「中核市サミット2024in秋田」のオープニングを飾ってくれたのは、「エレクトロニコス・ファンタスティコス秋田オーケストラボ」(上の写真)のみなさん。ブラウン管テレビや扇風機など、役割を終えた電化製品を新たな電子楽器へと蘇生させ、徐々にオーケストラを形づくっていくパフォーマンスで、メンバーは、秋田工業高等専門学校の学生が中心となって結成されました。ミルハス大ホールでの演奏を終えた彼らが、全国の市長たちを前に「千秋公園で盆踊り大会をやってみたい」と力強く宣言したことを開催市の市長として誇らしく思いました。

まちの強み×感性

 本市では、人口減少が進行する中にあっても、新たな挑戦を続けることが秋田市の未来を切り開くという考えのもと、本市の成長を牽引(けんいん)する「強み」の創出に努めてきました。近年は、これまでの取り組みが成果となって現れ、まちにも着実な変化が生まれています。

洋上風力発電などの再生可能エネルギーのトップランナーである
芸術文化ゾーンの充実が中心市街地の活性化につながっている
新スタジアム整備や先端技術を生かしたまちづくりモデル地区の検討を進めている
インバウンド需要が回復する中、台湾・台南市との交流が動き出す
市内に多くの大学が立地し、教員や学生、卒業生の活動がまちに活気をもたらしている
 こうした5つの強みと若者の感性を掛け合わせ、まちの個性と魅力を磨き上げていくことが重要です。
 私たちは、コロナ禍や豪雨災害を経て、他人の不安や怒りを想像し、理解しようと努力することが大切であると学びました。若者たちを見守り、そっと背中を押してあげること、一人一人の小さな心持ちの積み重ねが社会に希望を生み、本市の未来につながると思います。若者たちに希望を、その挑戦にはエールを送りましょう。
 本年がみなさまにとって「み(巳)のり多き一年」となることを祈念します。どうぞよろしくお願いします。


©2025秋田県秋田市(Akita City , Akita , Japan)
All Rights Reserved.